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消えるキオクと残るキミの温もり
消えるキオクと残るキミの温もり
作者: みみっく

1話 不思議な出来事と、クラスメイトの違和感

作者: みみっく
last update 最終更新日: 2025-09-04 02:16:49

 俺は、ごく普通の高校生だった。これまでに、彼女ができたことも、ましてや仲の良い女子さえいなかった。だが、ある日を境に俺の人生はがらりと変わった。

 普段は昼休みには教室で友人とくだらない話で盛り上がり、じゃれ合っているのだが、その日は、なぜだかそんな気分になれなかった。一人になりたくて、人影のない、今はもう使われていない屋上へ続く階段へと足を向けた。

 埃っぽい空気が澱む薄暗い階段の吹き抜け。コンクリートの壁に背中を預け、膝を抱え込むようにして座り込んだ。ドクドクと心臓が鳴り響く。理由もなく、心臓が痛いほどに脈打っていた。

 その時、頭上から澄んだ声が降ってきた。

「そこにいるのは誰?」

 声に驚いて顔を上げた瞬間、透明な何かに腕を掴まれたような感覚に襲われる。反射的に振り返ろうとすると、次の瞬間には足が宙に浮き、身体がフワリと軽くなった。風を切る音が耳元で鳴り響き、視界が上下逆さまになる。遠い空が目に飛び込んできた。それは、人生で初めて感じた浮遊感だった。

 記憶が途切れる直前、俺は確信した。

 ああ、俺は死んだんだ。

 そう、ぼんやりと認識した途端、世界は一瞬にして色彩を失い、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。

 次に意識が戻ったのは、硬いコンクリートの上だった。

 ふと気がつき、慌てて体を触って怪我をしていないかを確認する。背中と頭にわずかな痛みを感じた。頭にはヒリヒリとしたぶつけたような痛み、背中には床に打ち付けたようなジンジンする痛みが残っていた。それでも、それ以上の深刻な怪我はないようだった。

「いってぇ……生きてたか。あぶねぇ。よくあの高さから落ちて無事で済んだな……」

 階段の踊り場で上半身を起こして座り込み、背後にある落ちてきたであろう階段を見上げる。ごつんと頭を打った鈍い痛みがじんわりと広がっていくが、それ以外に大きな傷はないようだ。奇跡的な無事に感謝すると同時に、そのことに驚きを隠せない。

 ぼんやりと天井を仰いでいると、なぜ自分がここにいるのかという疑問が、靄がかかったように頭の中に湧きあがってきた。

「ふぅ……で、俺……なんで、こんなところにいるんだ? 別にイヤなことがあったわけでもないし。こんな寂しいところで何をする気だったんだ?」

 彼は首を傾げつつも立ち上がり、ふらつく足元に少しだけ戸惑いながらも、教室へと戻ろうと歩き出した。その途中で、廊下の角からひょっこりと顔を出したミカとばったり鉢合わせる。

 ふぅーん……今日はポニーテールか……。

 すれ違いざまにチラッと視線を投げ、そう思っただけのことだった。

 艶やかな黒髪を一本にまとめ、うなじが綺麗に露わになっている。確かに見た目だけは良い可愛い子だ。しかし、彼女の口から発せられる言葉は、いつも棘ばかりで、その見た目とのギャップに驚かされることも多い。

 見る分には害はなく、問題は性格なだけだ。それに俺は、ミカとは話したこともなければ関わりもなく、ただのクラスメイトなだけだった。

 彼女もまた、こちらを一瞥しただけで、何も言わずにすれ違っていく。

「ゆ、ユイトくん……」

 ん? はい? ゾクッと背筋に違和感が走った。名前を呼ばれただけ……なら、まあ、クラスメイトだしあり得ると思う。だが……あきらかにおかしい。口調が恋人や好意を持っている者に声を掛けるような甘い口調で名前を呼ばれた。

「……ん? ど、どうした? えっと……ミカさん」

 違和感を感じつつも振り返り、動揺した顔をして返事をした。

 このクラスメイトの女の子は表面上は愛想が良く、誰にでもニコニコと微笑みかける。しかし、その内側には計算高さや傲慢さが隠されている。自分が可愛いことを自覚しており、それを最大限に利用して他人を操ろうとする。自己中心的で、自分の利益のためなら平気で嘘をついたり、他人を蹴落としたりする。

 男子には特に愛想が良く、頼みごとをすれば大抵のことは聞いてもらえる。女子に対しても表向きは親しげに接するが、内心ではライバル視していたり、見下していたりすることが多い。

 テストの点数: 友人が努力して良い点数を取った時、彼女は満面の笑みで「すごいね、〇〇ちゃん!私なんて全然勉強してないから、全然ダメだったよ」と言いながら、そっと自分の満点に近い点数を見せつける。相手が喜んでいた気持ちを台無しにするのをたまに見かけてるし……

 仲の良い女子グループで、クラスメイトの悪口を笑顔で言う。「〇〇ちゃんってさ、ああ見えて結構、性格きついよね。私、あの子といるとちょっと疲れちゃうんだ」と、まるで無邪気に話しているかのように振る舞う。その場の雰囲気を一瞬で凍りつかせ、他の子が言い返せないような空気を作る。

 そんな言動を目の当たりにするたび、ユイトは心の底から「関わりたくないタイプだ」と感じていた。

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